橋本 慶紀, 岩井 将行

概要

近年、音声のもつ表現力の豊かさを理由に、ボイスメッセージの利用が広がりを見せている。一方で、モバイル端末を用いた非同期音声コミュニケーションには、デジタルディバイドの問題がある。モバイル端末を利用していなかったり、利用に慣れていない人は、非同期音声コミュニケーションが効果的と思われる場面であっても、音声コミュニケーションの対象が同期的に限定されてしまう。この理由で、幼い子供がいる家庭や高齢者施設など、音声のもつ息遣いや抑揚の情報がコミュニケーションに効果的に作用すると思われる場所は多くあるにもかかわらず、これらの場所で非同期音声コミュニケーションは十分活用されていない。 この問題を解決するために著者らは、クラウド上に録音メッセージをアップロードし、そのデータへのアクセスを紙に印刷したQRコードで提供するIoTノード「声ラベルプリンタ」を考案した。本ノードを用いることで、専用アプリケーションのインストールやネットワークサービス利用などの複雑な操作なしに、直感的かつ簡単に非同期音声コミュニケーションを活用することができる本稿では、上記システムの実装および、使用シナリオとして、ラベルをボードに複数貼り付ける場合と、物体それぞれに貼り付ける場合について検討した結果を述べる。本研究により、非同期音声コミュニケーションの応用範囲が広がることが期待できる。

近年、ボイスメッセージをはじめとする非同期音声コミュニケーションの利用が広がりを見せている。一方で、デジタル端末に不慣れな人々は、それらを十分活用できていない。この問題を解決するため、本研究ではIoTノード「声ラベルプリンタ」を提案する。録音データへのアクセスを、印刷したQRコードとして提供することで、専用アプリケーションや専用サービスの利用が不要になる。これによりすべての人が直感的かつ簡単に、非同期音声コミュニケーションを活用できるようになる。本稿では、上記IoTノードの実装の詳細と、利用シナリオを検討する。

1. はじめに

コミュニケーションは、同期コミュニケーションと非同期コミュニケーションに分けられる。双方がそれぞれ利点・欠点を持っており、我々は日常生活においてコミュニケーションの同期・非同期を使い分けている。

たとえば非同期コミュニケーションには、送信者と受信者が、お互いのコミュニケーションするタイミングを合わせる必要がないという利点がある。そのため、非同期コミュニケーションが際立って効果的な場面というのがいくつかある。[2] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaisigtwo/2017/CCI-003/2017_07/_pdf

携帯電話・スマートフォンをはじめとする小型端末が普及した現在、非同期コミュニケーションは、以前より頻繁に用いられている。SNSでの日常的なテキストチャットや、大学におけるオンデマンド授業がその例である。

非同期コミュニケーションのうち、特に音声コミュニケーションは、メッセージアプリケーションのボイスメッセージとして手軽に利用できる。特に若い世代を中心に積極的な利用の兆しがある。[1] https://www.vox.com/technology/23665101/voice-message-whatsapp-apple-text

一方で、デジタル機器を利用していなかったり、使い方がわからないなどの理由でデジタル機器の利用が難しい人は、そのような非同期の音声コミュニケーションを手軽に利用することができない状況にある。

[3] [4] https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/50/S1302-S04.html

https://www.moba-ken.jp/project/seniors/seniors20230327.html

幼い子供がいる家庭や高齢者施設など、音声のもつ息遣いや抑揚の情報がコミュニケーションに効果的に作用すると思われる場所は多くあるが、前述の理由のため、これらの場所で非同期音声コミュニケーションが十分活用されていない。

この問題を解決するために、著者らは、クラウド上に録音メッセージをアップロードし、そのデータへのアクセスを紙に印刷したQRコードで提供するシステム「空間音声ラベルプリンタ」を考案した。